私が色々思った話。

好きなもの追っかけたりして思った話とか。

よりによって閉幕後に舞台「よりによって」のレポをする。①

 

完全にタイトルで遊びたかっただけの記事を書きます。

 

吉村卓也さんの一人舞台、「よりによって」を観劇してきました。

伊村製作所というお笑いコンビの《閉鎖》後、初めての独り舞台。いえ、一人舞台。

 

4本のオムニバス形式で、脚本、出演、開演前の裏ナレすらも吉村卓也さんのみで構成。

さすがに全部一人だと、自己満だけになってしまうからと演出はシナリオ大賞受賞経験のある福島カツシゲさん。

 

俳優→芸人→俳優を経た吉村卓也さんならではの舞台が完成していました。

1本ずつ、内容と感想を書いていこうと思います。

ただ、4本ともタイトルは無いので表題は雰囲気で付けてます。

 

1本目「変○願望」

 

LINEの画面。

「シフト表をバイト先に出しにきたら、先輩が私の制服を着てた!意味わかんない!!写メ送るね!」

 

シャッター音と共に舞台に明かりが灯る。

ウエイトレスの衣装を身に纏う《先輩》が、恥ずかしがるようなポーズで立っていた。

 

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この話は、

指導係の先輩が、何故後輩の女子の制服を着ていたのか。

をひたすらに屁理屈で弁明する話。

 

まず初見のインパクト。

比較的筋肉質の成人男性がパツパツのウエイトレスの衣装を着ている衝撃。

「慣れてきた頃かな?」というセリフが劇中にあるのですが、数分経たないと慣れない見た目。

しかも偶然座った席がちょうど目線に近くて、すごく…(嫌だった。)

 

変態だ。と叫ぶ後輩に、

「僕は断じて変態じゃない。とりあえず落ち着こう。いつもやってるのをやろう。…円陣は組めないから気持ちで。」

と、独特な空気感と気持ち悪さがある話し方の先輩は弁明を始める。

 

後輩は変態じゃないと言った先輩に対し、女装癖なのかと指摘する。

先輩は女装癖でもないといい、そして女装癖は変態ではない。と断言。

「女装癖はいつもと違う自分になりたい《変身》願望なんだ。いや変態願望じゃない、変身願望だ。」

 

確かにこれは理屈が通っている。

理屈は通っているけれども、説得力のない格好をしているからなんとも言えない気持ちになる。

 

先輩はホワイトボードを持ち出し、公式を書き始める。

「ところで君はハロウィン…失礼。ハロウィーンに仮装はするかい?…する。ちなみに去年は何の仮装を?…ブルゾンちえみ。……withB!?wifiBをしたんだね…ちなみに2人いるけど……コージ。コージがどっちか分かんないんだけどね。」

先輩はハロウィンのコスプレは、変身願望だと言う。

「つまり、ハロウィンのコスプレと、女装癖は同じ、イコールになる。君は女装癖を変態だと言った。つまりハロウィン=女装癖=変態。君は変態ということになる!」

 

とんでもない屁理屈である。

でも先輩はそもそも女装癖=変態とは言っていないから、後輩の理屈で行くと。という事なのだろうか。

それにしても、ただひたすらに腹は立つ。

どこかの塾講師のような大袈裟な身振りで解説をする。…女装姿で。

 

「ちなみに僕は、ハロウィンにコスプレはしない。つまり僕は変態じゃないし、女装癖でもないということだ。」

いつの間にか先輩が変態だという話から、後輩が変態呼ばわりされるようになっていた。

ほとんど無理矢理納得させた?先輩。

ホワイトボードを消しながら本題に入る。

「ここまで話を聞いて、何故僕が君の制服を着てるか分かるか…今のは聞き捨てならない。君は今キモイと言ったね?ちなみにキモイはキモチイイ…の略じゃないね。薄々わかってはいたよ。」

 

先輩は服を着ている理由を、

教育係は教育する人のことをよく知らないといけない。

しかし自分は男で、後輩は女である。

女である後輩の気持ちになるならどうしたらいいのか。

その結果、制服を拝借することになったという。

 

「この考えは正解だった。おかげで僕は君の気持ちを知ることが出来たんだ。」

例えば…と例を挙げる。

「君は初めてこの制服を着た時、恥ずかしいと言った。僕にはそれが分からなかった。でも今、君が入ってきた時僕は『恥ずかしい』と思った。君の気持ちが理解できたんだよ!」

この制服でものを拾うとパンチラしてしまう。と実演して見せる先輩。

わざわざパンチラが見える方向に後輩を立たせ、何度も実演する。

 

これはもう変態である。なんならセクハラ事件として訴えられてもおかしくない。

もしこの行為すらも、後輩の為を思っているのだとしたら、ナチュラルボーンな変態である。

しかもこの時に判明するのが『女性ものの下着』を着ているということ。

きっとナチュラルボーンな変態である。

 

先輩は後輩に半ば説教を始める。

行動を起こさなければ意味が無い。君も行動を起こしてみるべきだ。と。

そしてサイレンが聞こえる

「あ…呼んだ?…行動を起こしたんだね…。」

警察が来たと同時に焦る先輩。

「あぁ!脱げない!ジッパーが!!!また1つ分かった!!これ1人で脱げないね!!」

 

この話が終わる頃、ようやく制服姿に慣れた気がした。

何度も何度も証拠写真を撮ろうとするシーンがあったり、

withBのコージをやったことを念押しする後輩がいたり。

細かいところのくだらないネタも良かった。

 

2本目 「妄想」

 

もう役者は辞めよう。と思った。

「バイト先にシフトを出し忘れたから早めに出るね。」と彼女からの連絡があって

机の上にはまだ未開封の封筒があった。

 

「役者を辞めようと思ったのに、よりによって選考通過…男はクッションを手に取り、引き裂くように綿を床にばら撒いた。……だめだー!全然浮かばない。」

 

男は作家志望だった。

捨てられたゴミから妄想し、それを記事にして公開するのが日課だった。

 

「こんなんじゃ泣けない。ゴミは話さないんだよ。だからゴミの声を聞かないと…。この綿のないクッションは、もっと切ない話であるべきなんだ。切ない話……母ひとり子ひとり……!!」

男は開かれたパソコンに飛びつき、物語を書き出す。

 

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母と子は、何もせずただお祭りを歩いていた。

子供が立ち止まり、声を出した。

子供の視線の先には、たった今空から落ちてきた雲のようなわたあめがあった。

「わぁ、お母ちゃん、わたあめやぁ!」

「欲しいんか?」

「うん!」

しかし子供は、母親が財布の中から小銭をかき集める姿をみて言う。

「やっぱ要らんわ!はよ帰ろ!」

息子に引っ張られながら、母は不甲斐ない自分を悔しがっていた。

家に帰ると息子は、クッションからはみ出る綿を見て、「わたあめみたい」と言った。

それを聞いた母はクッションから綿を取り出し、割り箸に巻き付けた。

飴玉を食べながらそれを持った子供は「わたあめを食べているみたい」と笑顔になった。

母は息子を抱きしめ、泣いた。

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「よし、よしよしよし、これだ!切なさがにじみ出ている!」

 

男は『ゴミ妄想』を記事にして、コメントに喜んだ。

 

>泣いた

>なんで綿のないクッションなんだ?

>中身だけが欲しかったの

>母と子供のやりとりがよかった

 

 

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ゴミ収集車の音が聞こえ、カーテンを開けると外は明るかった。

「またやってしまった」と口にした男は、ゴミ収集のカレンダーを確認する。

「月に一度の粗大ゴミの日だ!」

 

男は窓を開け、収集車にゴミを持っていかないで欲しい。と叫ぶ。

「それ、持っていかないでください!その壊れたレディオです!しかもそれ、壊れかけのレディオなんです。何も聞こえないし、何も聞かせてくれないかも知れませんけどね。」

業者は男が捨てたものなのか確認してきた。

男は違うといい、むしろ自分が捨てたものでは意味が無いという。

ルール違反だという業者に、

「作家志望なんです。サッカーボールじゃなくて、作家志望。ゴミの中に潜む物語を書いているんです!でもそのサッカーボールもいいな…。」

と話す男。

しかしその思いは届かず、業者は走り去った。

「なんだよ。」と愚痴をこぼす。

 

「それにしても、お隣さんか尋ねてきたのは驚いたなぁ。この部屋壁がすごく薄くて、昨日僕が叫んでたのを聞いて、救急箱まで持って心配して来てくれた。」

嬉しそうに話す男。

「しかも、僕に対して、あなただけの身体じゃ無いんですから。って。もしかして僕のこと好きなのかなぁ?」

前に難しそうな専門書を拾ったことがある。女医さんなのかもしれない。と妄想を繰り広げる。

 

「今日はゴミ妄想じゃなくて、お隣さんの妄想をしちゃおう!…18禁、お隣さん妄想日記…。」

 

>でた!エロ日記!

>ストーカーになるなよ?

>綺麗なものはそのままでいて欲しいんですよ

>待ってましたwww

>どんだけ壁薄いんだよw

 

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「僕の目の前には、レシートがあった。」

 

男は拾ったレシートで妄想を始める。

 

ウォッカキングサイズ10個…?近所に海賊でもいるのかな?あと…ミョウバン…。ミョウバン水は消臭効果があるらしい。足の臭い海賊??へへへ。」

ふとレシートを裏返すと、手描きのメモがあった。

「たぬき、きつね、ねこ、こぶた、たか、にんげん……?しりとりになってる………だーーもうやっぱ紙切れなんかじゃダメだ!!」

 

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「僕の前には、汚れた人形と、お隣さんがいた。」

 

「絶対引かれた……。」

男は落ち込んでいた。

「妄想が捗って、人形を抱きながら笑っていたのをお隣さんに見られてしまった…。でも驚いたな…。お隣さんがその人形を欲しいと言ったんだ。僕は妄想は得意だけど、妄想されるのは好きじゃない。」

人形作りが趣味だというお隣さんに、しぶしぶ人形を私は男は「なんて可愛らしい人なんだ!」と叫ぶ。

「人形を渡した時、少しだけ手が触れ合った。僕はまるで人形のように固まってしまった。彼女は僕の目を綺麗だと言った。いつか僕の人形も作りたいって…。どういうことなんだろう?そういえば、お隣さんが出てたゴミ袋にウォッカのキングサイズの瓶が沢山入っていた。」

 

今日もまた、妄想はお隣さんについてだった。

 

>隣人のゴミあさんなよw

>ニンゲン。ンがついたから、この遊びは終わり。

>ストーカーww

>ミョウバンって防腐剤の役割もあったよな

 

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メスと盗聴器を拾った男は、生き生きとしていた。

「君はなんで捨てられたんだい?盗聴してるのが見つかったのかな?君の持ち主は無事かい?」

盗聴器に呼びかけ、次にメスを見る。

「これは本物なのかな?それともおもちゃ?……痛っ…本物だ。なんでこれが草むらに落ちていたんだろう。…君は誰かを殺したのかい??……だめだ、これじゃサスペンスすぎる。今までついた読者が離れてしまう!」

でも新しい読者が見つかるかも…と閃く男。

男は明日お隣さんにお呼ばれした。と嬉しそうに呟き、記事を書いた。

 

>盗聴器?やばくね?

>怖い怖いw

>私も明日人を招くんですよ。楽しみです。

 

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「僕の目の前には、死体があった。動物じゃくて、人の死体だ。」

 

死体には物語がある。どうして殺されたのか。

そして、死体の前にいるもう1人にも物語がある。

「僕のおかげで、この物語は有名になる!!みんなも妄想してくれ。じゃないとこの死体はうかばれない。」

 

スクリーンにコメント欄が映し出される

>更新ないぞ?

>まさかなんかあった?

>まって、これ隣人が盗聴器しかけてない?

>しりとりは殺す順番?

>綿、ウォッカミョウバン、これで剥製作れるよね?

 

「妄想してくれ!!何故僕が殺されたのか!!」

男が叫び、暗転。

 

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感想を挟む暇もないほどに、少しずつ貯まっていく不安な要素。

面白いとコメントする中に、少し様子のおかしいコメントが入っていたりする。

男は色んなところを不思議がるが、優しい隣人にうつつを抜かし、気付かない。

この話で何よりも好きだったのは、最後のシーン。

種明かしのようにスクリーンに映し出される文字。

男のセリフは少なくなり、恐らく誰もがスクリーンに目を向ける。

その瞬間、「妄想してくれ!」と叫ぶ。

スクリーンへ向けられていた意識が一気に男に向かう。

ハッとさせられ、鳥肌が立った。

そしてこの瞬間、自分たちは男の話を見ていたのではなく

死んだ男から、男の死んだ理由を妄想していた、

男の言葉を借りるのであれば、「ゴミの声を聞いて妄想していた」ように思えた。

物語の枠の外から観ていたつもりだったのに、枠の中にいた。という話は個人的に大好きなので正直感服した。

 

残り2本も同じ記事で書こうと考えていたのだが、

既に5,000字を超えている。

1本目を書いた時にちらっと読んでくれた友人は「長!」と言った。

脚本の時点で25,000字を超えたという舞台を書き起こしてるんだから、

例え1割しか書いてなかったとしても、膨大な量になるのは予想できた。(予想すらもしていなかったけれど。)

なのでひとまずここで終わり。

残りの2本分はまた書け次第更新します。

 

よりによって、長くなることを書き始めて気付くなんて。